個人事業の建設業許可は、一代限りで次の代には引き継げません。つまり、事業主の名義で許可を受け、後継者に事業承継する際は、あらためて後継者の名義で許可を取り直さなければならないという問題があります。
また、個人事業の経営業務の管理責任者といえば、ほとんどの場合「事業主」であり、後継者である子息等が実質的に業務を取り仕切っていたとしても、原則として、経営業務の管理責任者の経験として認められていないため、後継者は自分が事業主になっても、しばらくの間は建設業許可を取得することができません。
ところが、同じ後継者でも個人事業の「支配人」となっていれば、これは経営業務の管理責任者の経験として認められており、後継者はすぐに自分の名義で許可申請をすることができます。ちなみに、支配人とは、商人に代わってその営業に関する一切の裁判上又は裁判外の行為をする権限を有する商業使用人であり、前述のような事業主の片腕的存在である子息等が該当しますが、商業登記法上の「支配人登記」がなされていることが必要です。
事業承継の予定がある個人事業の建設業許可申請は、このあたりのことを十分検討した上で実行しなければなりません。
さて、実際の申請についてですが、建設業許可を急ぐのであれば、事業主の名義で事業主を経営業務の管理責任者として許可申請し、この際に子息等を支配人登記しておけば、5年ないし7年後には経営業務の管理責任者の資格ができます。将来的に許可を取り直すことにはなりますが、これにより次の代の許可もスムーズに取れるようになります。
また、許可を急ぐ必要がなければ、子息等を支配人登記して所定の年数を経ることにより、事業承継時に子息自身が経営業務の管理責任者となり建設業許可を取得することができますので、いずれにしても支配人登記はお考えになった方がよいと思います。
なお、事業承継の時期が到来しているのであれば、既に経営業務の管理責任の要件を満たしている事業主を支配人登記し、子息等の名義で許可申請するという方法もあります。事業承継が時期尚早であれば不向きですが、この方法であれば、子息等が要件を満たした段階で経営業務の管理責任者を変更すればよく、許可の取り直しの問題は発生しません。
このように、個人事業の建設業許可、特に事業承継を視野に入れる場合に「支配人登記」は非常に役立つものですが、実際に行われるのは非常に稀です。
しかし、有効な方法なので、以上のようなケースに該当される皆様はぜひご検討ください。