建設業許可取得の要件


令3条の使用人と建設業の経営経験

投稿日時:2014/05/30 09:17

前回は、「令3条の使用人」も建設業法第7条第1号にいう「経営業務の管理責任者としての経験を有する者」の一つであり、所定の経験年数があれば、建設業許可を取るにあたり、経営業務の管理責任者となることができるというお話をしました。
 実は、この令3条の使用人には意外な盲点があり、今回はストーリー仕立てで、そのあたりのお話をしたいと思います。


<令3条の使用人ストーリー>
 Aさんは、工業高校卒業後、上場企業の大手設備工事会社B社に入社。現場の叩き上げで九州支店長まで出世した人で、このほど定年退職を迎えました。
まだまだ働く意欲が旺盛なAさんは、定年前から思い描いていた夢がありました。それは、自分で建設会社を設立し、電気工事業と管工事業を営むことでした。
 AさんにはB社で培った技術と経験、そして長年にわたり築き上げた人脈があります。ビジネス上の勝算は十分ありましたが、それを確実にするにはやはり建設業許可が必要と考え、会社設立後さっそく建設業許可の取得に向け動き出しました。
 一級施工管理技士(電気工事・管工事)なので、専任技術者になることは何の問題もありません。問題は、経営業務の管理責任者でしたが、「大手の支店長」ならば、役員でなくともその要件として認められると知り、在任期間も確か5年以上あったので、何とか建設業許可を取る目処が付いたAさんでした。
ところが、詳細の職務経歴を洗い出してみたところ、5年以上あるはずだった支店長の期間が実際には4年ほどしかありません。
 実は、Aさんは長く副支店長を務めた後支店長になったので、多少の記憶違いがあったのでしょうが、いずれにしても、副支店長では特別な場合を除き「経営業務の管理責任者としての経験」として認められません。
ちなみにB社の九州支店は完成工事高数百億円であり、Aさんは副支店長の頃からその営業全てを管掌し、自分は支店長と変わらない仕事をしてきたという自負がありました。
そのことを県土整備事務所に掛け合ってみましたが、良い返事は得られませんでした。
どうしても納得がいかず、知人に紹介された行政書士に相談しましたが、その行政書士の見解も県土整備事務所とほぼ同じでした。
それでも行政書士は、Aさんがまとめた略歴書を精査してみましたが、やはり支店長の期間は4年数カ月であり、どうすることもできません。
 残る方法としては、前述の「特別な場合」を立証すること、すなわち副支店長の期間を「許可を受けようとする建設業に関し経営業務の管理責任者に準ずる地位(昭和47年3月8日建設省告示第351号)」として証明することが考えられましたが、これまたレアケースで、そう簡単にはできそうにない状況でした。
行政書士は、Aさんの経営業務の管理責任者の要件を証明するのは無理ではないかと思いかけましたが、ふと略歴書に記載されたある職務経歴に目が留まりました。
それは、Aさんが40代前半の頃約2年間務めた「久留米出張所長」というものであり、このときのことをAさんに尋ねると、大体次のようなことでした。
 久留米出張所はB社九州支店営業部の下にある連絡事務所のようなものであり、「所長」といっても課長代理クラスのポストであった。そこでの仕事といえば、指名願の提出や入札に行くだけで、とても建設業の経営経験とはいえない。
しかし、行政書士はこう考えました。
 Aさんが所長として入札に行っていたということは、久留米出張所は常時建設工事の請負契約を締結していたといえ、規模の大小にかかわらず建設業法上の営業所ではないか。だとすれば、Aさんは令3条の使用人として届出されていたはずだから、この時代の年数を加算すれば経営業務の管理責任者の要件を満たすことができる。
そこで、Aさんにそのことを伝え、前勤務先に照会してもらったところ、やはりAさんは久留米出張所時代に令3条の使用人として届出されていたことが判明し、幸運なことに当時の変更届出書の控えも保管されていました。
かくして、Aさんは経営業務の管理責任者としての経験を証明する手立てを整え、その後の申請手続きも順調に進み、晴れて建設業許可を手にし、前途洋洋第二の人生を歩み始めたのでした。


今回はここで終わります。次回まとめたいと思います。



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