合併等組織再編時における特殊経審

公開日:2022年02月07日 / 最終更新日:2022年08月22日

合併等組織再編が行われた場合の特殊な経営事項審査

公共工事に入札参加する建設業者において組織再編(合併、事業譲渡、会社分割)等が行われた場合、再編後最初の事業年度終了を待たずに新会社の企業力が速やかに評価されるよう、その組織形態の変更に応じ、経営事項審査(経審)を受けることができる「特殊経審」という制度があります。

特殊経審とは

そもそも特殊経審とは、組織再編、会社更生手続開始の申立て等イレギュラーな事象が発生した場合に、通常とは異なった方式で審査される経営事項審査のことですが、これら以外にも外国建設会社、企業集団(親子関係グループ会社)、建設会社を傘下に収め統合する持株会社が申請する特殊経審があります。

 

組織再編の場合に特殊経審を申請するか否かは任意ですが、合併により拡大した企業規模についてすぐに総合評定値を得たい場合は、特殊経審を受ける必要があります。また、消滅会社の入札参加資格等を引き継ぐために受けなければならない場合などもあるでしょう。

特殊経審のメリット・デメリット

メリットとしては、特殊経審を受審することにより、消滅会社の「完成工事高及び元請完成工事高」「技術職員数」「自己資本額」「利益額」等がプラスされるので、存続会社・承継会社等は経審の総合評定値を大きく上げることが可能になることです。

 

一方デメリットとしては、公共工事発注機関に対する特殊経審受審の要否の確認、許可行政庁や経営状況分析機関への事前相談等の手間がかかることや、すべての当事会社を合算させた「工事経歴」「完成工事高」の集計、「連結財務諸表」等々の作成など、膨大な作業が必要なことです。

 

特に財務諸表の作成は当事会社だけで完結できるものではなく、公認会計士又は税理士による横断的精査により内容が適正である旨の証明があるものを準備しなければなりません。

特殊経審の申請について(合併時経審の場合)

合併時の特殊経審(合併時経審)を例に、申請要領、審査の取扱い等についてご説明します。

合併時経審を受けることができる時期

合併後最初の事業年度終了の日が到来するまでの間

審査基準日

・吸収合併の場合は「合併期日」

・新設合併の場合は「新設会社の設立日である合併登記の日」

審査方法の細目

(1)年間完成工事高及び年間元請完成工事高について

<例示>

3月31日決算の会社が令和4年4月1日を期日として吸収合併を行った

審査基準日の翌日の直前2年又は直前3年の存続会社及び消滅会社の完成工事高をもって審査されます。

審査対象事業年度

令和3(2021)年4月2日~令和4(2022)年4月1日

前期審査対象事業年度

令和2(2020)年4月2日~令和3(2021)年4月1日

前々期審査対象事業年度

平成31(2019)年4月2日~令和2(2020)年4月1日

すなわち、これらそれぞれの期間の当事会社の完成工事高を合算した金額になるわけですが、本来の決算日を変え完成工事高を計算しなおすことが必要です。

ただし、額の確定までに相当の時間を要する場合において、やむを得ないと認められるときは、次のいずれかの額をもって申請して差し支えないものとされています。

イ 存続会社が経営事項審査を申請しようとする日の属する事業年度の開始の日の直前2年又は直前3年の各事業年度における存続会社の完成工事高及び同一期間における消滅会社の完成工事高の合計額

審査対象事業年度

令和3(2021)年4月1日~令和4(2022)年3月31日

前期審査対象事業年度

令和2(2020)年4月1日~令和3(2021)年3月31日

前々期審査対象事業年度

平成31(2019)年4月1日~令和2(2020)年3月31日

すなわち、合併直前のものを審査基準日とする経営事項審査(合併直前経審)を受ける場合における各事業年度の当事会社の完成工事高を合算した金額です。

ロ 存続会社が経営事項審査を申請しようとする日の属する事業年度の直前の事業年度の開始の日の直前2年又は3年の各事業年度における存続会社の完成工事高及び同一期間における消滅会社の完成工事高の合計額(審査基準日が経営事項審査を申請しようとする日の属する事業年度の直前の事業年度終了の日から3月以内である場合に限る。)

審査対象事業年度

令和2(2020)年4月1日~令和3(2021)年3月31日

前期審査対象事業年度

平成31(2019)年4月1日~令和2(2020)年3月31日

前々期審査対象事業年度

平成30(2018)年4月1日~平成31(2019)年4月1日

すなわち、合併直前経審を受ける場合の審査対象事業年度の前期を起点とし、直前2年又は3年間の各事業年度の当事会社の完成工事高の合計額を選択することもできるということですが、審査基準日が直前の事業年度終了の日から3カ月以内という条件が付きます。例示の場合は事業終了日の翌日であり、該当します。

(2)技術職員数

吸収合併の場合は「審査基準日における状況」に基づき審査されます。なお、恒常的な雇用関係(6カ月超前からの常用雇用)の有無については、消滅会社における雇用関係も含めて審査されますので、その証明資料も必要になります。

 

新設合併の場合は「設立時における状況」に基づき審査されます。なお、恒常的な雇用関係(6カ月超前からの常用雇用)の有無については、消滅会社における雇用関係も含めて審査されますので、その証明資料も必要になります。

(3)自己資本額、利払前税引前償却前利益の額、経営状況及び研究開発費の額について

<例示>

3月31日決算の会社が令和4年4月1日を期日として吸収合併を行った

これらの計算については直近2期分の数値が必要で、必然的に存続会社及び消滅会社を同一決算期に換算した連結財務諸表を2期分(当期及び前期)作成することになります。

 

その際の「当期の数値」とは審査基準日現在、「前期の数値」とは存続会社の直前の事業年度終了の日における数値であり、それらの事業年度については、次のとおりです。

審査対象事業年度

令和3(2021)年4月2日~令和4(2022)年4月1日

前期審査対象事業年度

令和2(2020)年4月2日~令和3(2021)年4月1日

ただし、額の確定までに相当の時間を要する場合において、やむを得ないと認められることきは、当期の数値は存続会社の事業年度の終了の日、前期の数値は存続会社の基準決算の前期の決算日により作成された連結財務諸表により審査を受けることができます。

審査対象事業年度

令和3(2021)年4月1日~令和4(2022)年3月31日

前期審査対象事業年度

令和2(2020)年4月1日~令和3(2021)年3月31日

また、審査基準日が経営事項審査を申請しようとする日の属する事業年度の直前の事業年度終了の日から3月以内である場合にあっては、当期は存続会社の基準決算(直前の事業年度終了の日における決算。以下同じ)の前期の決算日、前期は存続会社の基準決算の前々期における連結財務諸表により審査を受けることもでき、前述のとおり例示は事業年度の翌日なので、該当します。

審査対象事業年度

令和2(2020)年4月1日~令和3(2021)年3月31日

前期審査対象事業年度

平成31(2019)年4月1日~令和2(2020)年3月31日

なお、これら連結財務諸表は、原則として公認会計士又は税理士による内容が適正である旨の証明があることが必要です。

(4)建設業の営業継続の状況

吸収合併の場合は「存続会社の営業年数」となります。

 

新設合併の場合は「消滅会社の営業年数の算術平均により得られた値」となります。なお、消滅会社が平成23年4月1日以降の申立てに係る再生手続開始の決定又は更生手続開始の決定を受け、かつ審査基準日以前にこれらの終結の決定を受けていない場合は、当該消滅会社の営業年数は0年として取り扱われます。

(5)法令順守の状況

審査基準日の翌日の直前1年(令和3(2021)年4月2日~令和4(2022)年4月1日)における存続会社の法令順守の状況が審査されます。

(6)監査の受審状況

存続会社の直前の事業年度終了の日(令和4年3月31日)の状況が審査されます。

(7)上記以外の審査項目

審査査基準日における状況に基づき申請します。

(8)その他留意事項

例示の場合、存続会社は合併前の3月末に決算を迎えますが、合併時経審を受けるのであれば、合併直前決算に基づく経審は受ける必要はありません。合併時経審の結果通知が前年に受審した経審の有効期間(審査基準時から1年7カ月)中に届くと考えられるからです。

 

また、もしも合併直前経審受審後に合併時経審を受けるときは、業種ごとに時点の異なる評価が併存することは望ましくないことから、存続会社が公共工事を請け負う可能性のあるすべての業種につき審査を受けるものとされ、特定の業種のみを選択して受けることはできません。

まとめ

合併等組織再編時における特殊な経営事項の手順、要領等はおおむね以上のとおりですが、コンテンツをご覧いただいている皆様の理解を促進することを最優先し、年間完成工事高及び年間元請完成工事高、自己資本額、利払前税引前償却前利益の額、経営状況及び研究開発費の額の例示は、あえて「決算日の翌日が合併日」というごくシンプルなものにしました。

 

実際には、互いに決算日が違う複数の当事会社により合併等が行われることもあると思いますので、特に財務諸表を作成する際の事業年度の設定については、まず経営状況分析機関にご相談いただくのがよいでしょう。


 コンテンツ監修者プロフィール


 高松 隆史(たかまつ たかし)

 昭和35年10月9日生まれ。行政書士。

 行政書士高松事務所・建設業許可申請サポート福岡代表。


 地場老舗ゼネコンの社長室長、常務取締役を経て、平成22年5月行政書士登
 録。福岡市を中心に福岡県内全域で年間100件以上の依頼・相談を受ける。

 建設業の産業特性や業界事情、商慣習等を自らの肌で知る「元建設業経営者
 の行政書士」として、建設業許可の取得支援業務を最も得意とする。

 建設業者が抱える経営法務の諸問題に対し、建設業実務に即した実戦的なア
 ドバイスができる建設業法の専門家として定評がある。


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